ストゥーバと夕焼け──色彩の旅路と四角いブラシの格闘

大きなケヤキ並木が続く中杉通りを、屋根のあるアーケードの店々を覗きながら歩くと、阿佐ヶ谷駅へとたどり着きます。駅から早稲田通り方面へ一本裏の道を歩くとき、なんの変哲もないブロック塀の上に頭を少しだけ覗かせているストゥーバ(卒塔婆)が見えます。塀の向こうは覗けませんが、おそらく静かな墓地なのでしょう。

時刻は夕方。仕事を終え、一日の満足感を味わいながら歩いていると、これから迫ってくる夕闇前の一瞬の太陽の輝きと、ストゥーバを包む見えない光の気配が、ある種のスピリチュアルな力となって私を捉えました。思わず持っていた安物のカメラでシャッターを切っていました。

家に帰り、そのままでは少し物足りないと感じたその写真を、Photoshopでデジタル加工してみました。今回は、その時に加工した記憶と写真をベースに、新たなイラストレーションを描いてみることにしました。

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前回は「内房・富浦海岸の夕暮れを描く──現実と幻想が交差するドラマチックな空と影」という記事で、植物という真っ黒の額縁を配した夕焼けを描きました。実際には存在しない赤やピンクの雲といった鮮やかな色をあえて登場させ、現実とは少し離れた世界を描こうとしたそのアプローチに手応えを感じ、今回もまた、実際には存在しない色彩を使って光という実態のないものを表現してみようと思いました。

しかし、完全なる抽象画にしてしまうと、何を描いているのかが自分でも見失われ、絵を描いている実感が薄れてしまいます。そのため、ある程度は何を描いているのかわかる具象性を残しつつ、色彩への新たな旅に出ることにしたのです。

また、最近になって現代アメリカの風景画家であるH・Iの絵画に深く惹かれ、「このように描いてみたい」と強く思い始めていたことも、本作を描く大きなきっかけとなりました。結果的に、風景画家のスタイルとはまた違った仕上がりにはなりましたが、この新しい表現シリーズの最初の作品として、あえて皆さんにご紹介することにしました。決して手放しで大成功した絵とは言えませんが、表現の幅を広げるための第一歩として、この試みをお届けしたいと思います。今回は、いつものベクターグラフィックソフト「Inkscape 1.0」ではなく、ドット絵やラスター形式のテクスチャ表現にふさわしい「GIMP 2.10」を選択しました。


GIMP 2.10の新規画面をA4横サイズの300 dpiで設定します。まずは「アタリ」レイヤーを作成し、ブラシツールの細い線と薄いベージュの色を使って大体の構図を決めました。

構図といっても、下部のブロック塀から頭を覗かせているストゥーバと、中央に広がる光と雲の気配だけです。画面のほとんどは、空の光と雲が描く対象そのものとなります。はたしてこれだけの要素で絵が成り立つのか、どのように画面を構成すべきか。現代アメリカの風景画家H・Iの四角い油絵のタッチをヒントに、GIMP 2.10のブラシツールから「Block01」を選択しました。

パレットでサイズ、縦横比、角度を変えながら、まずは大まかな色を画面に置いていくことにします。この「Block01」というブラシは、筆のタッチが四角く表現されるため、これ一本で画面を構築するにはなかなかの不自由さを伴います。ですが、風景画家の絵の質感を模すため、あえてサイズや角度を工夫しながら、この四角いブラシだけに頼って勝負することにしました。


ブラシの角度を45°に設定し、縦横比を変えながら、これから夕闇に向かっていく空の大まかな色を置いていきます。しかし、少し明るすぎました。画面中央に光を描く予定のため、明暗のメリハリをつけるためにもっとトーンを落として暗くしてみます。


続いて、この画面の中で最も難しい、右側に広がる光の当たっている雲や光の表現を描き込んでいきます。


光といっても実態のないものです。ここでは周囲の紺色と相性が良さそうな薄いレモンイエロー、レモンイエロー、そしてピンクを、雲の気配を感じる場所に直感的に置いていきます。さらに、これだけでは面白みに欠けるため、補色であるオレンジも少量混ぜてみました。この段階ではまだ純粋な抽象画に見え、描いている自分自身も少し手探り状態です。それでも、迷いを断ち切るようにどんどん自由に色を重ねていきました。


「Block01」という四角いブラシ特有の制約があり、思い通りにいかずに苦労の連続です。どうしても風景画家H・Iの筆致に近づけることができません。雲のエッジの、暗い部分から明るい部分へ変わる微妙なグラデーションを「ぼかしたい」という誘惑をグッとこらえ、あくまで「点」の積み重ねで描き通すことに決めました。

このブラシは、マウスでドラッグして線を引くよりも、クリックで一打一打色を置いていく方がしっくりくることに気づきました。試行錯誤の末、ようやく「これくらいなら許せる」という範囲まで仕上がってきました。これ以上上手く描ける自信はありませんが、グラデーションの表現を色の組み合わせと点の大きさでカバーし、水色などの寒色系も適宜追加しながら、なんとか夕闇と雲、そして光が共存するモチーフを形にすることができました。


最後はレイヤーを別に分け、もう一つのモチーフであるストゥーバを下方に描き込んで全体のバランスを整え、今回のイラストレーションの完成です。


今回は少し消化不良な部分もありましたが、新しい表現シリーズの第一歩としては「こんなもんかな」という手応えと安堵感を抱いています。

皆さんは今回の作品をご覧になってどのように感じられたでしょうか? 何か感想やコメントがありましたら、ぜひ気軽に残してください。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。

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