前回は、「冬の吐息、モンタナの情景を紡ぐ」と題して、しんしんと冷える冬の空気感をイラストレーション的なタッチで表現しました。しかし、一つの作品を完成させた安堵感も束の間、私は再び「次の一手」を求めて、創作の迷宮に足を踏み入れていました。
似たような作風が続くことへの焦燥感。デジタルイラストという無限のキャンバスを前に、次にどの方向へ筆を走らせるべきか。のたうちまわるように新しいスタイルを模索する日々の中で、私はふと立ち止まりました。
「一度、肩の力を抜いてみよう」
今回は、あえて緻密な計算を捨て、リラックスした状態でキャンバスに向き合いました。それは、次なるステップへ進むための、創造的な「休息」であり「遊び」でもあります。
「具象」という名の仮面を被せて
「羊の皮を被った狼」という言葉がありますが、今回私の心を捉えたのは「具象という皮を被った抽象」というコンセプトです。
描こうとしているのは、紛れもなく「女性の顔」という具体的なモチーフ。しかし、その根底に流れる精神は、形に縛られない「抽象画」の自由さです。リアリズムに寄せるのではなく、ポップアートのような大胆な構図と色彩を狙いました。
あえて背景を一切排除し、ロイヤリティーフリーのモデル写真から「目・鼻・口」のパーツだけを大胆にクローズアップします。この極端なフレーミングこそが、具象を抽象へと昇華させる第一歩となりました。

Inkscapeで描く、魂の軌跡とレイヤーの重なり
今回も愛用のオープンソース・ベクターグラフィックソフト「Inkscape 1.0」を駆使しました。筆圧によって表情を変える「カリグラフィツール」を主役に据え、レイヤー機能を多用して深みを出していきます。キャンバスサイズは、その迫力を余すことなく伝えるために「A3縦」に設定しました。

まずは新規レイヤーに、ベースとなる肌色を流し込みます。その上に、カリグラフィツールのサイズを最大級に設定し、顔の陰影を「面」として置いていきます。
この段階では、何を描いているのか判別できないほど、荒々しい色の塊が並びます。しかし、この混沌とした状態こそが抽象画としての醍醐味であり、完成への予感に満ちた瞬間でもあります。

失敗という記憶を、紫の閃光に変えて
眉、鼻、唇……。徐々にパーツを定義していきます。特筆すべきは、眉から顎にかけて置いた「紫」の陰影です。
かつて「GIMPで女性を描く」という記事で、緑色の陰影を使い、意図した表現にならず悔しい思いをした記憶が頭をよぎりました。あの時の「緑」へのリベンジとして、今回は肌のピンクと相性の良い「紫」を選択。論理的な帰結というよりは、指先が求めた直感的な色彩でした。

続いて、画面に光を呼び込みます。暗く沈んでいた肌に明るいハイライトを重ね、おでこや瞼に光を宿らせます。鼻筋や瞼の下には、あえてイエローのタッチをスッと走らせました。この黄色い閃光が加わることで、画面にポップアート特有の生命力が宿り、徐々に「顔」としての造形が浮かび上がってきます。

瞳に宿るブルー、そして微細な調整
いよいよ魂を吹き込む「目」の描き込みです。まつげや瞳の詳細を、あえて少しラフな筆致で表現していきます。
ここで全体を俯瞰すると、一つの違和感に気づきました。紫色の陰影が、少々「劇薬」すぎたのです。また、頬の陰影が内側に深く入り込み、モデルの顔が少しやつれて見えてしまいました。デジタルアートの強みは、ここからの軌道修正にあります。

刺激的すぎた紫から赤みを抜き、静謐な「ブルー」へと変更。それに呼応するように、茶色だった瞳もブルーへと染め上げました。色彩のトーンを統一することで、画面全体にクールな知性が漂い始めます。頬のラインをふっくらと補正し、最後に唇へ一筋の光を添えて、完成の時を迎えました。

おわりに:遊び心が、次の扉を開く
いかがでしたでしょうか。今回は、特定の技法に固執するのではなく、色彩と戯れ、構図で遊ぶことを最優先にしました。
「具象」という器の中に、自分の内面にある「抽象」を流し込む。この試行錯誤こそが、私の提唱する「デジ絵ライフ」の神髄です。型を崩すことで見えてくる新しい景色があります。
さて、この遊びを経て、次はどんな世界を描こうか。再び新しいキャンバスに向かうエネルギーが、今の私には満ちています。
次回の更新も、どうぞお楽しみに。

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