Inkscape 1.0で描く、郷愁を誘う風景:大きな煙突のある公園

前回は「【デジ絵制作記】日常の風景を切り取る」として、ごく「何の変哲もない」公園の情景をInkscapeで描きました。しかし、描き込みの不満、特に葉の重なりや遠近感・立体感の表現に課題が残り、私自身、消化不良の感が否めませんでした。

そこで今回、その経験を踏まえ、リベンジを果たすべく再びInkscapeで筆(カリグラフィツール)を執ります。

今回の舞台は、かつて米軍の家族宿舎があったという跡地に広がる大きな公園。自宅から自転車で約10分、たまの日曜日に散歩に訪れる、大きな煙突が印象的な風景を切り取ります。かつての記憶と現在の情景が交差する、どこか懐かしい風景を描き出すことが今回のテーマです。

デジタルでありながら、今回は筆のタッチを模倣した表現にこだわります。前回の反省から、できる限り「ぼかし」の効果を排除し、筆の勢いと手跡をそのまま残します。

主要ツールには今回もカリグラフィツールを使用しますが、筆先に「キャップ」という、実際の筆に似た尖ったオプションを適用。これにより、特に葉のシャープな感じを表現します。

色彩については、彩度を抑えて少しメロウ(Mellow)な雰囲気に仕上げつつ、明暗のコントラストはしっかりと持たせ、メリハリのある絵を目指します。

目次

早速、Inkscape 1.0を起動し、A4縦のキャンバスに新規レイヤーを作成し、下絵レイヤーとします。描画の目安(アタリ)とするため、以降も新しいレイヤーを作成するたびにこの下絵レイヤーをその上に配置します。

カリグラフィツールの幅は約5、種類はマーカーを選択。前回と異なり、「キャップ」オプションを約2に設定し、色はパレットからベージュ系を選びます。

構図は、上から約三分の一の位置にグランドライン(地平線)を設定。前回同様、緑の葉の集まり(マッス)を意識し、遠近感を出します。前景の葉が空の一部を切り取るように画面上部から覗き込み、その広がった青空に煙突が印象的に直立する配置とします。

下絵が完成したら、すぐに上に「地面と芝生」レイヤーを作成し、下絵レイヤーをアタリとします。

カリグラフィツールで、地面と芝生を塗り分けていきます。色の彩度を少し落とし、落ち着いたトーンで表現します。芝生の影の部分は、日向と日陰の境目部分のみ、「フィル」にぼかしを適用します(この作品では、レイヤーのぼかしは全て0、不透明度は100で統一しています)。

次に、地面に落ちた影を描き加えます。芝生の影と連続するよう、下絵レイヤーの表示を切り替えながら確認します。遠くの地面に落ちた影も「フィルのぼかし」で表現しておきます。

地面がおおよそできたら、全体の約半分を占める空を描いていきます。ここが一つ目の見せ場です。

今回、ぼかしも不透明度もデフォルト(100)のまま、筆のタッチのみで雲の雰囲気を出していきます。ここでも「キャップ」付きのカリグラフィツールを使用します。

最初はツールの幅を30〜40程度にし、4色の近い色を使い分けて塗り重ねます。タッチを隠さない表現にしたいので、大まかに4色に分けたタッチで空の様子を表現します。境目が気になったら、ツールのサイズを少し小さくしてタッチに変化をつけ、調子を出します。描きすぎないよう注意しながら、タッチが残った状態で止めるのがポイントです。

空が描けたら、地面近くの遠景の緑と、その手前の立木を描きます。

遠景の緑は、絵全体の濃淡のメリハリを考慮し、コントラストを濃いめに描きます。ここもタッチを残すため、ぼかし0・不透明度100で、色の差が少ない2〜3色で調子を出します。

次に、その前景となる立木の緑を、遠景よりも少し明るい2色で描きます。ここでもタッチを残し、葉っぱのマッスを意識しながら調子を出します。

続いて、その立木の明るい部分の緑を描き加えます。先ほど描いた暗い部分の上から、明るい緑を選択し、キャップ付きのカリグラフィツールで適度なサイズのタッチで重ねます。葉っぱの重なりをマッスで表現することで、立木らしさ、そして奥から手前に連なった遠近感が生まれてきました。

さらに、前景の葉が上から垂れ下がった様を描きます。明るい空を背景に、葉のシルエットが際立つ部分です。最初はツールのサイズを上げて濃い重なりを描き、徐々にサイズを小さくして、葉の隙間から青空が透けて見えるように描きます。青空と接する部分は、サイズを思い切り小さくし、葉が一枚一枚確認できるように描くことで、さらに遠近感が増します。

緑の葉っぱたちの間から見える木の枝を描きます。そして、この絵の象徴である煙突に取り掛かります。

問題は煙突の真っ直ぐな線をどう描くか。機械的な直線が引けるペンツールも使えますが、ここではあえて、多少ぶれてもマウスのフリーハンドで、カリグラフィツールで描くことを選びました。長い線を一気に引くと曲がるため、三つに分けて、納得いくまで何度もやり直し、手描きの味を残しました。これで全体の印象が引き締まってきました。

細部ですが、左側の立木の隙間から覗く青空を描きます。先に描いた、空から垂れた葉っぱの要領で、青空に使った色を緑の上からカリグラフィツールで2〜3のタッチで描き、次に葉と同じ色で小さなタッチを重ねて、空が隙間から見えている様子を表現します。

次に、近景の街灯を描きます。この直線はフリーハンドでは難しいため、ペンツールを使用します。街灯のポールに光が当たって明るい部分は、右側の線だけをコピーして重ね、フィルを無しにし、ストロークの塗りを設定して少しぼかしを入れて光を表現します。

ほぼ仕上がりですが、奥の芝生と遠景の緑の部分の繋がりが気になったため、調整レイヤーを作成して修正。芝生、地面、影がより自然に見えるよう調整しました。

少し寂しい感じがしたため、芝生の中景に人物を配置し、情景に動きを与えました。

最後に、四方にはみ出た部分を長方形ツールで白く塗りつぶして隠し、全体を確認。これで完成とします。データを保存し、すべてを選択した状態でPNG画像にエクスポートして制作完了です。

いかがでしたでしょうか。私の中では、前回の課題を乗り越え、この絵で一つの完成したスタイルを確立できたと感じています。これをもって、リベンジは果たせたと言えるでしょう。

静かで少し寂しげな雰囲気も、かえってこの情景のメロウな魅力になっているかと思います。

ですが、芸術はビルド・アンド・クラッシュクラッシュ・アンド・ビルド。このスタイルを一度崩し、さらにワクワクするような絵を追求したいという意欲が湧いています。

次回はどんな作品が出現するのか、どうぞご期待ください。 最後までお読みいただきありがとうございました。ご質問やご感想はコメント欄へどうぞ。

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