シルエットが織りなす「私だけの小宇宙」

──詩から生まれたデジ絵の風景

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絵を描くという行為は、私にとって、胸の内に生まれた「イメージ」を可視化する旅のようなものです。頭の中に浮かんだ、まだ形を成さない漠然とした風景や感情。それを目標として定め、一心不乱に筆を進める(デジタルの場合はツールを操作する)ことで、ようやく世界に定着させることができます。

前回の記事では、まず詩が生まれ、その言葉の一つひとつに纏わりつく鮮烈なイメージを追いかけるようにして、絵を描き始めました。しかし、こうした詩的なひらめきや、心象風景は、いとも簡単に指の隙間から逃げてしまう砂のようなものです。そのイメージが鮮明なうちに、素早く描き留める必要があります。

今回の絵は、そうして生まれた詩のイメージが、さらに別の方向へと溢れ出し、まるで副産物のようにして出来上がった「もう一つの小宇宙」です。完成した絵を前に、まるで別の扉が開いたかのような感覚を覚えました。今回は、この心象風景の描き方と、描く上での心の動きについて、詳しくご紹介したいと思います。


この手の絵を描く際の技法は、驚くほどシンプルです。ひらめきを逃さないスピードが命なので、複雑な操作は一切必要ありません。

私が使用するのは、主にIllustratorですが、Inkscapeなど、お好きなベクターワーク系アプリケーションであれば問題なく描くことができます。ベクター形式のメリットは、後からいくらでも形や大きさを自由に修正できる点です。描いている最中は、とにかく直感と勢いを優先し、後の調整は二の次で構いません。

基本となる技法は、「ペンツールでクリックするだけ」です。

1. 直線:アンカーポイントを次々にクリックして、線と面を構成していきます。ここでは「曲線」を意識する必要はありません。

2. 形へのこだわりを捨てる:最初は、厳密な形にこだわらず、イメージの「骨格」を素早く捉えることを優先します。

3. モノクロームの詩情:色は、基本的にスミ一色(黒)で描いていきます。私はこの黒を、時折紺色に変えて、夜明けや黄昏のような詩的な深みを加えることもあります。このモノクロームの世界が、描かれた対象を影絵(シルエット)のように浮かび上がらせ、鑑賞者の想像力を強く刺激します。

オブジェクトを直線で作成し、それを重ねていくことで、だんだんと複雑な形状、すなわち影の濃淡や遠近感を表現していきます。ドーナツのように穴の空いた「複合パス」を使うこともありますが、基本は、黒と白(背景色)の2色で描くシンプルさです。

この手法は、デジ絵初心者の方でもすぐに試せる、イメージを形にするための最も早い道だと感じています。

それでは、実際に私がIllustratorで描いていった手順を解説していきます。

​Illustratorを立ち上げたら、ファイルメニューから新規書類を選択します。

今回は、630px×630pxの正方形のアートボードに描いていきます。この正方形が、私の「小宇宙」のキャンバスです。


まず、絵の基盤となる地平線を描きます。普通の風景画であれば、地平線は横一直線ですが、ここでは「自分なりの小宇宙」というイメージを強調するため、地平線をあえて円弧のように描きます。これは、地球の丸み、あるいは小さな星の表面を思わせ、見る人を非日常の世界へと誘います。


次に、画面中央になんの変哲も無い木を描きます。あえて「なんの変哲も無い」とすることで、この世界における変わらない存在のシンボルを表現します。枝や葉の重なりを、ペンツールの直線で描かれたシンプルなシルエットで表現します。このシルエットこそが、後の風景に詩的な重量感を与える鍵となります。


木に向かってまっすぐに伸びる一本道を描きます。この道は、鑑賞者の視線を絵の奥へと導く役割を果たします。道の両脇には柵を描き、さらに「光が左から差している」という設定で、柵の影も描画します。シルエット画であるからこそ、この「影」の存在が光を強烈に意識させ、絵にドラマ性を与えます。

道の両サイドの柵の外には、風紋を描き加えます。これは、この世界に「風」という動き、すなわち時の流れや記憶の痕跡があることを暗示しています。また、中心の木の少し向こう側、円弧の地平線に近い部分に草叢を描き、中心の木のサイズ感、つまり絵全体の遠近感を表現する助けとします。

【想像の余地としての「空」】

地上の描画が終わったら、空に浮かぶ雲を描きます。ここでは、もはや自然の形に捉われず、大胆にシュールっぽい雲を描くことで、この世界が現実ではない、心象風景であることを明確にします。

最後に、この絵の世界に「物語の断片」を投げ込みます。比較的大きめに女性のハイヒールを描き入れます。この異物感、そしてハイヒールのサイズ感が、手前側にあるという遠近法上の仕掛けにより、絵全体の奥行きと非現実感を決定づけ、詩的な謎を添えて完成です。

いかがでしたでしょうか?

この絵には、この世には絶対に存在しない世界、すなわち「私だけの世界」や「小宇宙」が広がっています。影絵(シルエット)で描く風景だからこそ、ディテールに囚われず、描く側の感情や詩情をダイレクトに表現することができました。

今回の描き方は、私のデジ絵の源泉である「イメージを瞬時に定着させる」ための、最もシンプルな方法です。もしあなたが、頭の中で膨らむイメージを、もっと早く、もっと詩的に表現したいと感じたなら、ぜひこの「ペンツール+直線+シルエット」の技法を試してみてください。

あなたの心の中に眠る、まだ見ぬ世界が、モノクロームのシルエットとして、アートボードに現れるはずです。

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