壊して、創る。──団地風景に求めた「色のハーモニー」と、葛藤の記録

「芸術はビルド・アンド・クラッシュ、クラッシュ・アンド・ビルドだ」かつて私は、そんな威勢の良い言葉を口にしたことがありました。しかし、言葉とは裏腹に、私の筆は2ヶ月もの間、ぴたりと止まっていました。いわゆる、スランプです。次に何を、どう描けばいいのか。自らの中にある地図を失い、霧の中を彷徨う日々でした。そんな私を救い出してくれたのは、ある方から届いた、小さな催し物の案内状作成の依頼でした。「まずは、身近な風景から。そして、とにかくシンプルに」私は近所の団地の風景をスマホで切り取り、それを土台に、Adobe Illustratorで描き始めました。催し物のイメージに合わせて、現実の色を忘れ、明るくカラフルな世界を構築したのです。


出来上がった絵は、それ自体で一つの完成形に見えました。けれど、描き終えた瞬間に、新たな欲求が鎌首をもたげたのです。「現実の色彩を、想像の色彩へ。マティスのような野獣派の力強さや、ボナールのようなナビ派の繊細な光を、デジタルで表現できないだろうか?」Illustratorのパスが作る境界線は、あまりに明快で、あまりに潔すぎました。私が求めたのは、色と色が境界で溶け合い、互いに響き合う、渾然一体となった「色のハーモニー」。誰にも真似できない、私だけのオリジナルな表現を求めて。私はここから、自ら作った「ビルド(構築)」を「クラッシュ(破壊)」する挑戦を始めることにしたのです。

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新たな表現の舞台に選んだのは、ドットを打つのに適した「GIMP 2.10」でした。A4の縦画面に、Illustratorで描いた構図と色彩を写し、そこから「変化」させていく。最大の課題は、あのくっきりとした色面の境目を、どうやって滑らかに繋いでいくかです。

まずは「グレー」と名付けた50%グレーのレイヤーで画面を落ち着かせ、その上に「アタリ」を描いていきます。新しいパーツを作るたびにレイヤーを重ね、慎重に下絵を進めました。

まずは地面から。隣り合う色を拾い、その中間色を境目にそっと置いていく。ブラシのサイズを調整しながら、一打一打、点を配置して境界線を消していきます。空も同じように、色の対話を繰り返すように描きました。

描き進めるうちに、ふと不安がよぎります。「これは、点描画に向かっているのではないか?」当初のイメージとは違う方向へ進んでいる予感がしながらも、他に術を知らない私は、一歩一歩進むしかありませんでした。

建物以外が埋まった頃、その「点描感」は無視できないほど強くなっていました。GIMPの機能にある「ぼかし」や「テクスチャ変更」を使えば、もっと手軽に滑らかな表現ができたかもしれません。けれど、私はシンプルに、自分の筆致(タッチ)だけで勝負したかった。……いえ、正直に言えば、複雑な機能に頼るのが、少し億劫だったのかもしれません。そんな迷いを抱えたまま、右側の銀杏の木、そして建物へと筆を進めます。

ようやく描き終え、不要になったアタリのレイヤーを消してみました。

……うーん。画面を見つめ、私は小さく息をつきました。Illustratorで描いた時と、本質的には大差がないような気がしたからです。マティスやボナールのあたたかな空気感というよりは、スーラの「グランド・ジャット島の日曜日」のような、理知的な点描画に近い仕上がり。スーラは素晴らしい画家ですが、今回、私が目指した場所はそこではありませんでした。はっきり言って、今回は「失敗」です。「ビルド(構築)」し、「クラッシュ(破壊)」するところまでは来ましたが、そこから新たな価値を「ビルド(再構築)」することの、なんと難しいことか。けれど、かつての巨匠たちも、こうした産みの苦しみを幾度となく味わってきたはずです。この苦しさの先にしか、真の喜びはない。そう信じています。ここで筆を折れば、すべては終わります。この「届かなかった」という感覚さえも楽しみながら、私は次のステップへ進もうと思います。

次は、どんな景色に出会えるでしょうか。もしよろしければ、皆さんの感想や、創作の悩みなどをコメントで教えてください。それが私の、次の一歩を支える糧になります。では、次回の記事でお会いしましょう。

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